speculum-スペクルム-統合版

 

所要時間:約70~80分

作者:yuka

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<役>

ルナ♀:ミラの部屋の鏡の中にいるミラとそっくりな女の子。(15歳)

ミラ♀:元気で素直な女の子。ルナとそっくり。(15歳)

ソル♀:ミラの母親。(38歳)

カエルム♂:ミラの友達。(18歳)

アミー♂:鏡の中にだけあるくまのぬいぐるみ。ルナの友達。


<役表> ♂2:♀3
ルナ♀:
ミラ♀:
ソル♀:
カエルム♂:
アミー♂:

※アミーは男性表記になっていますが、女性がやっても構いません。

 

 



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-出会い(5年前)-


ソル:昔々、街の外れの一軒家。そこには仲のいい夫婦が住んでいました。

ミラ:お父さんとお母さん!

ソル:夫婦の間には可愛い可愛い女の子が一人生まれました。

ミラ:私だ!

ソル:ふふっ、そうね。ある日、仕事に出たお父さんは帰ってこず…この家には、小さな女の子とお母さんの二人きり。
   お母さんは、その子に寂しい思いをさせてはいけないと天にお祈りをしました。
   するとどうでしょう。鏡の中に、女の子のお友達が現れたのです。

ミラ:おともだち…?

ソル:お友達は女の子にそっくり。すぐに仲良くなれると思うわ。
   10歳の誕生日おめでとう、ミラ。これが貴方のお友達よ。

(鏡にかかった布を捲るとそこにはミラの姿だけが写っている)

ミラ:鏡…なんで私しか写ってないの?お母さんは?

ソル:それはね、ミラ。この鏡に写ってるミラがミラのお友達だからよ。

ミラ:…?

ルナ:ミラ…?

ミラ:!!?

ソル:ふふっ、ビックリしたでしょう?ミラ、この子がミラにそっくりのお友達よ。
   ルナっていうのよ。ルナ、この子がミラよ。二人ともきっと仲良くなれるわ。

ミラ:………

ルナ:ミラ…へへっ、私はルナだよ。よろしくね、ミラ。

ミラ:よ、よろしく…

ルナ:ミラのこと聞いてから、ずっと会いたかったんだ!
   本当に一緒なんだね。何だか嬉しい(右手を鏡に当てる)

ミラ:私も…何だか不思議。よろしく、ルナ(ルナの手に合わせるように左手を鏡に当てる)

ソル:あらあら、手を合わせて…本当に鏡みたいね。
   ルナ、ミラのことよろしくね。



ミラM:これが、私たちの出会い。



-5年後ー



ソルM:それから5年後。



ルナ:ミラー!起きて!ミーラー!!

ミラ:ん…ぅ、もうちょっと…むにゃむにゃ……

ルナ:今日は街に出かけるんじゃないのー?

ミラ:ん…ぅん…街、行…く…すぅ…

ルナ:男の子と出かけるんでしょー?

ミラ:男の…子?ハッ!そうだ!カエルムと約束!!

ルナ:おぉ、起きた。おはよう。ミラ。

ミラ:大変!もうこんな時間!あーっ、何着てこう…

ルナ:昨日の夜、明日朝選べばいいやーって寝ちゃったじゃない。

ミラ:そうだけど!早起きするつもりで…あー…どうしよー…

ルナ:全く…しょうがないなぁ。ねーえ、ミラ。私の姿見て。

ミラ:今はそんな時間…って、あれ?どうしたの、ルナ。そんなお洒落して。
   似合うね、そのピンクのワンピース。

ルナ:これ、クローゼットに入ってるから。今日のミラにはぴったりじゃないかな?

ミラ:私に…?

ルナ:うん。

ミラ:!!(クローゼットを漁る)あった!私こんな服持ってたんだー…ありがとう!ルナ!!

ルナ:うん、似合う似合う。デート、頑張ってきてね。

ミラ:デートじゃないよっ!

ルナ:待ち合わせ場所は?

ミラ:街の広場の噴水のとこ。ひゃー!もう行かなきゃ!!

ルナ:やっぱりデートじゃん。

ミラ:違うって!あぁ、いってきまーす!

ルナ:いってらっしゃーい。………はぁ。

アミー:そんな寂しそうな顔するなよ。

ルナ:アミー…起きてたの?

アミー:ルナが大声出すからな。

ルナ:ふふっ、ごめんね。

アミー:外に連れ出してやることはできないが、鏡の中でくまのぬいぐるみと出来ることでなら相手してやってもいいぜ?

ルナ:んー、そうねぇ…じゃあ、今日はアミーに似合う素敵なドレスを作ろうかな。

アミー:うっ…それだけは勘弁してくれ!




【街の広場の噴水】



ミラ:カエルムー!!!!(走ってくる)

カエルム:ミラ。遅い。

ミラ:はぁっ…はぁ…ごめん。

カエルム:どうせ寝坊でもしたんだろ?

ミラ:うっ…ごめんなさい。

カエルム:相変わらず正直だな。少しは言い訳考えてみろよ。

ミラ:言い訳…あ、来る途中に!大きな熊に追いかけられて…

カエルム:はいはい。今更言い訳しても遅いから。第一熊に追いかけられるって…(呆れ笑い)

ミラ:う…だって、カエルムが言い訳しろって…

カエルム:しろとは言ってないだろ?もうちょっと頭使えるようになるといいな?

ミラ:うぅ……

カエルム:ん?ミラ、腕のとこ怪我してないか?

ミラ:え?あぁ…これ?走ってたら、木の枝で擦っちゃって。

カエルム:気をつけろよな。一応、女の子なんだから。

ミラ:はぁい。

カエルム:今日は何買うんだ?

ミラ:あ、えっと今日はね。お母さんに頼まれた食材と…あ、あと可愛い小物や布とか洋服の売ってるところ見たいな。

カエルム:お前さー、キャラに似合わず可愛いモノとか好きだよな。
     よく小物や布見てるし、今日の服もピンクだしさ。

ミラ:あー、私のじゃないよ。私はあんまり興味ないし。

カエルム:?じゃあ、お母さんの趣味?

ミラ:ううん。お母さんもあんまりそういうのは興味ないんじゃないかな。

カエルム:??じゃあ誰?ミラの家ってお母さんとお前だけじゃなかったっけ?

ミラ:…う、うん。多分……

カエルム:多分?

ミラ:あー…絶対!

カエルム:ミラ。

ミラ:はい。

カエルム:お前、嘘下手だな。

ミラ:う……

カエルム:誰か一緒に住んでるの?俺、お母さんしか見たことないけど。

ミラ:…誰にも言わない?

カエルム:うん。

ミラ:実はね………



【家。ミラの部屋】


アミー:あ、ルナ。

ルナ:ん?

アミー:腕、怪我してるぜ?

ルナ:本当だ。ミラ、急いで転んだりしたのかな?

アミー:かもな。よかったな、擦り傷で。
    しかし、アイツもよく怪我するよな。

ルナ:…ねぇ、アミー。

アミー:ん?

ルナ:走って、転んで、怪我をするってさ…どういうことなんだろうね。
   外ってさ、いっぱい走れる野原や道があって、それで石やデコボコに躓いて転んじゃってさ、
   地面とかに身体擦って怪我しちゃうんでしょ。
   その時ってどう思うんだろうね。どうして転んじゃって、痛くなるんだろうね。

アミー:それを転んで怪我しないくまのぬいぐるみに聞くのか?愚問だぜ?

ルナ:…ん、それもそっか。さ、出来たよ。アミーに似合うと思うな。この黄色のドレス。

アミー:だから!それだけはやめろって言ったのに!何で作るんだよ!

ルナ:だって、私の楽しみなんだもん。アミーに似合う服作るのって。

アミー:ミラに似合う髪型考えるのは?

ルナ:それは今日はお休み。さ、せっかく作ったんだから着てみせて?ほら、ばんざーい。

アミー:うわあああああ!やめろおおおおおおお!!!!

ソル:(ノックをして扉を開ける)ルナ?

アミー:………

ルナ:あ、お母さん。

ソル:誰かと話していた?ミラは今日カエルムと買い物に行っているはずだけれど。

ルナ:ううん。私一人で遊んでいたわ。

ソル:そう。…ねぇ、ルナ。少しお話をしましょうか。

ルナ:うん。私、お母さんのお話好きよ。

ソル:ありがとう、ルナ。
   昔々、街の外れの一軒家。そこには仲のいい夫婦が住んでいました。

ルナ:お父さんとお母さんね。

ソル:そうね。夫婦の間には可愛い可愛い女の子が生まれました。

ルナ:その子供がミラね。

ソル:女の子は双子でした。

ルナ:…え?

ソル:昔から、この国では双子は忌み嫌われていました。そして国には掟があったのです。
   「双子が生まれた場合、先に生まれた方を殺しなさい」と。
   しかし、夫婦の前には生まれたばかりの可愛い女の子が2人。自分たちの可愛い可愛い子供。
   殺すことなんてできない…夫婦は話し合い、二人とも隠して育てることに決めました。
   娘にはルナとミラという名前をつけました。

ルナ:ちょっと待って…どういう……

ソル:しかし、考えが甘かった。隠しておくなんてことはできませんでした。
   掟を破った罪と…お父さんは捕まりました。
   お母さんは考えました。掟に従えば、お父さんは帰ってくると…
   お母さんはお父さんを愛していました。生まれたばかりの娘よりも、ずっと、ずっと、ずっと……

ルナ:………

ソル:そして、お母さんは割れた鏡の破片で女の子の一人の胸を刺してそのまま森に埋めました。
   これでお父さんが返ってくると高揚した気持ちだったわ。
   けれど、お父さんは返ってこなかった…

ルナ:………

ソル:遅かったのよ…お父さんはもう処刑されていた。
   「俺はどうなってもいい。でも、娘と妻は許してくれ」と懇願したそうよ。
   本来なら聞き入れられない願いだけれどね。お父さんの古くからの友人がお偉い方で…
   必死なお父さんを見て受け入れてくれたそうよ。
   双子がいると人目につかぬよう、最低限の生活ができるようにと家まで用意してくれてたんですって。
   それを知らずに、私は娘を殺した。
   私は、愛する人と娘を…同時に失った……

ルナ:その、死んだ子が…私?

ソル:……驚いたわ。ミラの10歳の誕生日、姿見をプレゼントしようと思ったのよ。
   プレゼントに買った大きな姿見、布を捲ったら…そこに写っていたのは私ではなくルナ。貴方だったわ。
   きっと私に復讐しに来たのだと思った。だから私は考えたわ。考えたの。
   そして、お話することにしたわ。
   「昔々、街の外れの一軒家。そこには仲のいい夫婦が住んでいました。」………

ルナ:…「夫婦の間には可愛い可愛い女の子が一人生まれました。
     ある日、仕事に出たお父さんは帰ってこず…この家には、小さな女の子とお母さんの二人きり。
     お母さんは…」

ソル:「お母さんは、その子に寂しい思いをさせてはいけないと天にお祈りをしました。
   するとどうでしょう。鏡の中に、女の子のお友達が現れたのです。
   お母さんは喜びました。そして、天に感謝しそのお友達に名前を付けました。」

ルナ:……「ルナ、と。」

ソル:…ルナ、今日から貴方はミラのお友達よ。ミラのことよろしくね、ルナ。

ルナ:………ッ

ソル:どうして…私たちの前に現れたの?私たち家族を壊しにきたの?

ルナ:…え?

ソル:貴方が生まれた時点で私たち家族は壊れたのよ。私は愛する夫を失って…
   それなのに、まだ私たち家族を壊したいの?一体、いくら私の邪魔をしたら気が済むの?

ルナ:お母さん…

ソル:…このお話。最後まで、貴方たちに話したことなかったわね。
   ルナにだけ先に教えてあげるわ。

ルナ:お母さん…

ソル:でも、鏡の中のお友達は実は悪い魔女でした。お母さんはそれに気づき再び天にお祈りしました。
   お母さんの願いは天に届きました。次の日、鏡の中のお友達は灰になって消えました。
   女の子とお母さんは再び幸せに暮らしましたとさ。おしまい。

ルナ:………

ソル:私の可愛い娘のルナは死んだの。貴方は鏡に現れた魔女よ…
   ミラは渡さないわ。

ルナ:お母さ…

ミラ(声):(被せて)ただいまー

ソル:あら、ミラが帰ってきたわ。(部屋から出ていく)

ルナ:……………

アミー:ルナ…

ルナ:私は…魔女………

アミー:ルナは魔女じゃねぇよ。知ってるか?魔女はピンクの服似合わないんだぜ。

ルナ:…ふふっ、ありがとう、アミー。





ソル:おかえりなさい、ミラ。

ミラ:ただいま、お母さん。

カエルム:お邪魔します、おばさん。

ソル:カエルムも、いらっしゃい。ご苦労様。
   いつもありがとね。

カエルム:いえ、大丈夫です。
     ミラ、ただでさえそそっかしいのに。荷物たくさん運ばせるとすぐ転ぶから。

ソル:ふふっ、貴方みたいな頼りになるお友達がいて、ミラも私も助かってるわ。

ミラ:そうだね。いつもありがとう。
   あ、お母さん。
   ちょっとカエルムを部屋に上げていいかな?渡したいモノがあって。

ソル:部屋に?
   いけません。何故部屋に行く必要があるの?
   此処で渡せばいいじゃない。

ミラ:それは…一人で取り出すのが大変だからさ、カエルムに手伝ってもらおうと思って。

ソル:それなら私が取るのを手伝ってあげるわ。

ミラ:えっと、お母さんに見られたくないっていうかー…あの、だから…

カエルム:あー、おばさん。ごめん。
     ミラがクローゼットの裏にペンダントを落としたって言ってたから。
     俺が取ってやるよっていったんだ。
     ペンダントはおばさんへのプレゼントで、サプライズで渡すために一度俺が預かる予定だったんだ。

ミラ:え?

ソル:あら…そうだったの?

カエルム:うん。ごめんな、ミラ。
     おばさんに秘密って言ってたのにバラしちゃって。

ミラ:え?あ…あー!うん!全然大丈夫。

ソル:そう。私のために…ありがとう、ミラ。
   でもダメよ。部屋に人をあげちゃ。お母さんとの約束でしょ?

ミラ:うん…ごめんなさい。

カエルム:じゃ、俺帰るな。
     おばさん、お邪魔しました。

ミラ:あ、私そこまで送ってくる!

ソル:ええ。またいつでもいらっしゃい。
   いつもありがとうね。

ミラ:じゃ、ちょっと行ってきます。




【帰り道】


カエルム:…はぁ、ダメだったな。

ミラ:…うん………

カエルム:ミラ、お前嘘下手すぎ。

ミラ:うっ…ごめん。

カエルム:うーん。しかしなぁ…ミラの部屋に行かないと会えないんだろ?
     その、ルナ…だっけ?お前そっくりの鏡の中にいる友達。

ミラ:うん…

カエルム:あー…どうすっかなぁ。あの様子じゃおばさんは絶対部屋に上げてくれないし。

ミラ:あ!!

カエルム:あ?

ミラ:そういえば、お母さん今度の街の集会に出るって言ってた!
   その日はたしか、昼から夜までいないはず!!

カエルム:今度の集会ってことは…5日後か。

ミラ:その日に家に来ればいいじゃない!ルナに会わせるわ。

カエルム:あぁ、そうさせてもらうよ。
     ミラ、くれぐれもおばさんにバレないようにしろよ。

ミラ:う、うん!私頑張るよ!!

カエルム:おう。じゃあ、またな。




【ミラの家】



ルナ:わー!素敵よアミー、とっても似合うわ!

アミー:うぅ…どうせならこんなフリフリ黄色のドレスより格好いいタキシードが着たかったぜ…

ルナ:ふふっ、今度作ってあげるわね。

アミー:本当か?

ルナ:うん。約束ね。

ミラ:ただいま。

アミー:………

ルナ:あ、おかえり。ミラ。
今日は転んだの?

ミラ:あぁ、腕の傷?走ってたら木の枝で擦っちゃって…
   またルナにまで怪我させちゃったね。ごめん。

ルナ:ううん、私は大丈夫よ。
   不思議ね、ミラが怪我をすると私も同じところに傷が出来るけど…
   でも、どんなにミラが派手に転んで血を流しても私には傷が出来るだけで痛みはないの。

ミラ:本当、不思議だよね。
   でも、ルナが痛くないならいいや。
   私の所為で、ルナにまで痛い想いさせたくないもの。

ルナ:私だって、できればミラに痛い想いしてほしくないんだけどな。
   あまり転んだりしたら駄目だよ。

ミラ:う…気をつける。

ルナ:うん。
   ねぇ、彼に気に入ってもらえた?ピンクのワンピース。

ミラ:うーん、キャラに似合わず可愛いモノ好きだなって言われちゃった。

ルナ:あら、とっても似合ってるのに。

ミラ:ピンクの服も可愛いモノも、私よりルナの方が断然似合ってるよ。

ルナ:同じ顔じゃない。

ミラ:でも、性格とか雰囲気は違うでしょ?
   私が着たピンクのワンピースとルナが着たピンクのワンピースじゃ、やっぱり見え方が違うと思うの。

ルナ:そうなのかな?
   じゃ、今度は私よりミラにもっと合う服を考えるわね。

ミラ:ありがとう。
   あ、それでね…あのね、ルナ…

ルナ:ん?どうしたの?

ミラ:カエルムにさ、私もお母さんも可愛いモノに興味あるわけじゃないのに、
   いつも可愛い小物とか布を買いに行くことに疑問だったみたいで…
   私、嘘つくの下手でしょ?だから…

ルナ:もしかして…

ミラ:うん。話しちゃった…ルナのこと………

ルナ:……そっか。

ミラ:そしたらね、カエルムがルナに会ってみたいって。

ルナ:え?

ミラ:今日部屋に上げようと思ったんだけど、お母さんに止められちゃって…
   でもね、5日後にある街の集会でお母さん家を留守にするの。
   その時にカエルムとルナを会わせたいんだ。

ルナ:ちょっと待って、ミラ…

ミラ:カエルムはとても優しくていい人なの。ちょっと口の悪い所もあるけれど…
   でも、お母さんとも仲がいいし。私の友達だし。
   ルナもきっと仲良くなれると思うわ。
   部屋に呼んで、会わせてもらえないかな?

ルナ:…………

ミラ:ダメ…かな?

ルナ:…いいわよ。ミラのお友達だもの。私も会いたいわ。

ミラ:ほ、本当?

ルナ:ええ、もちろん。

ミラ:やったー!

ルナ:…ねぇ、ミラ。
   ミラは、私と友達でよかったなって思う?
   鏡の中に…自分と全く同じ姿の友達がいるなんて気持ち悪くない…?

ミラ:何言ってるの、ルナ。
   友達でよかったに決まってるじゃない。
   ルナは私の最高のお友達よ。

ルナ:ミラ…ありがとう。

ミラ:当たり前じゃない。
   あ、でも。いつか鏡の中から出て、一緒に遊べたらいいな。

ルナ:ミラ……

ミラ:なんてね。
   5日後、私に合う服と髪型よろしくね。もちろんルナもだよ!
   私とお母さん以外に会うなんて初めてじゃない?
   おめかししなきゃね!

ルナ:うん、そうね。
   考えておくわ。







ミラ:………(寝息)

ルナ:……………

アミー:…ルナ、寝ないのか?

ルナ:アミー…うん、眠れなくて…

アミー:お母さんが言ったこと気にしてるのか?

ルナ:…ううん、そんなんじゃないよ。
   ミラに似合う服と髪型は何かなーって、考えてたの。

アミー:そうか。

ルナ:うん。5日後にね、ミラがお母さんに内緒でお友達を連れてくるんだって。
   楽しみだなって。

アミー:うん。

ルナ:アミーもおめかししなきゃね?

アミー:タキシードだったら着てやってもいいぜ。

ルナ:ドレスも似合うのに。

アミー:やめてくれ…

ルナ:……嫌われないかな…

アミー:大丈夫だよ。ルナはおしとやかだから。

ルナ:ありがとう、アミー。
   アミーも、大事な私の友達よ。

アミー:当たり前だろ。言わなくてもわかる。

ルナ:うん、ありがとう。

 

 


【5日後】


ソル:それじゃあ、お母さん出かけてくるわね。
   スープを用意しておいたから温めて食べてね。
   夕飯には帰って来れないけれど…本当に一人で大丈夫?

ミラ:うん。大丈夫よ、お母さん。

ソル:本当に大丈夫かしら…ミラは少し抜けている所があるから。一人にするなんて心配だわ。
   やっぱり出かけるのはやめようかしら。

ミラ:お母さん、大丈夫だって。
   心配しないで行ってきて。大丈夫よ。家にはルナもいるし。
   何かあったら街の集会所まで走って行くわ。

ソル:…そう。わかったわ。
   じゃあお母さん行ってくるわね。誰か来ても家に上げちゃ駄目よ。

ミラ:うん。わかってるわ。
   いってらっしゃい。







アミー:ルナ…ちょっと服小さいんじゃない?キツイ…

ルナ:え?ちゃんと測って作ったんだけどなぁ…
   アミーが少し太ったんじゃない?

アミー:ぬいぐるみは太らないよ。
    このタキシード、ほら、キツくて腕が上がってきちまう。

ルナ:うーん、じゃあまた作り直さなきゃね。
   キツイなら今日はやめてこの前の黄色いドレス着る?

アミー:やだ!我慢する!!

ルナ:似合ってたのになぁ。
   でも、そのタキシードも素敵よ。今度作り直すわね。

アミー:本当か?!

ミラ:ふぅ…お母さん出かけたわ。

アミー:………

ルナ:ミラ、ご苦労様。

ミラ:お母さん、本当に心配性なんだから。
   行くのやめるって言い出した時はどうしようかと思ったわ。

ルナ:お母さんらしいわね。

ミラ:うん。でも大丈夫。これで夜まで帰ってこないわ。

ルナ:ええ。あ、ミラが着る服。選んでベッドに置いておいたわ。
   私なりにミラが似合うモノを考えたのだけれど…どうかしら?

ミラ:本当?!ありがとう!
   わぁ、この緑のワンピース綺麗…早速着てみるわね!

ルナ:うん。

ミラ:(着替える)…どうかな?

ルナ:わぁ…ミラ。とっても似合うわ。

ミラ:本当?

ルナ:うん。緑が凄く綺麗。
   私が着てみたのだけれど、私にはあまり合わなくて心配だったの…
   でもミラにはとってもよく似合っているわ。
   この前のピンクのワンピースよりずっといい!

ミラ:ありがとう!ルナ!!
   ルナもピンクのワンピース似合っているわ。
   あと、そのくまさん?私の部屋には見当たらないけど。
   タキシード、似合ってるね。ルナが作ったの?

ルナ:うん。そうよ。

ミラ:凄い。ルナは器用だね。私とは大違い。
   この前着せてた黄色のドレスも可愛かったなぁ。

ルナ:ふふっ、そうね。

アミー:………

カエルム(声):ミラー!

ミラ:あ、カエルムが来た!
   はーい!(部屋から出ていく)

アミー:………絶対ドレスは着ない。

ルナ:似合ってたって、ミラも言ってたわよ?

アミー:着ないったら着ない!

ルナ:意地っ張り。
   楽しみだなぁ。ミラの友達に会うの。

アミー:そうだな。

ルナ:アミーのことも、私のお友達ってミラとカエルムに紹介してもいい?

アミー:俺はくまのぬいぐるみだからな。
    くまのぬいぐるみが友達なんて言ったら、変な奴に思われるぞ?

ルナ:鏡の中にいるお友達も、十分変だよ。

アミー:………

ルナ:ましてや、見た目が全く一緒の魔女だなんて……

アミー:俺は、ルナだけの友達だからな。
    ミラたちの前ではぬいぐるみで居させてもらうぜ。

ルナ:そっか。
   …ありがとう、アミー。












ミラ:カエルム、いらっしゃい。

カエルム:おう。おばさん出かけた?

ミラ:うん。あがって。部屋に案内するわ。

カエルム:…緊張するな。

ミラ:大丈夫だよ。
   見た目は一緒だけど、私と違っておしとやかで優しいから。

カエルム:おしとやかなミラ…全く想像つかねぇ。

ミラ:とてもいい子だからすぐ仲良くなれると思うわ。
   さぁ、此処が私の部屋よ。準備はいい?

カエルム:あ、ああ…

ミラ:(扉を開ける)ルナ。カエルム来たわよ。
   さぁ、カエルム入って。

ルナ:…初めまして。

カエルム:…………(呆然としている)

ミラ:?どうしたの、カエルム?

ルナ:…びっくり、してるんじゃないかな?

カエルム:…本当だ。

ミラ:え?

カエルム:夢みたいだ…夢じゃ、ないよな?

ミラ:何言ってるの?

カエルム:これ、本当に鏡か?
     俺の姿写ってないし、此処にいるミラは緑の服着てるのに鏡の中のミラはピンクで…

ミラ:カエルム、どうしたの?落ち着いて。

ルナ:ふふっ、びっくりするわよね。これは鏡よ。
   初めまして、私はルナ。

カエルム:は、はじめまして。カエルムです…

ルナ:カエルム。ミラから話は聞いているわ。
   今日は会えて嬉しいわ。家族以外に会うのは初めてなの。よろしくね。





ソル:はぁ…大丈夫かしら。ミラを一人で家に置いておくなんて…
   



カエルム:へぇ、本当にミラにそっくりなのに違うんだな。
     ピンクの服もミラよりルナの方が似合ってるし。

ルナ:ありがとう。ミラにもこの緑のワンピース、似合ってると思わない?

カエルム:あー…そうだな。ピンクよりは全然。

ミラ:どうせピンクは似合わないですよーだ。

ルナ:素直に緑が似合ってるって言えばいいのに。

カエルム:…っ、そうだな。ピンクよりはマシだな。

ミラ:やっぱりピンク似合わないのかぁ。わかってたけどさぁ…

カエルム:…お前、頭悪いな。






ソル:いいえ、一人だから不安なわけじゃないわ。
   不安なのは…ルナと一緒にいるから。
   あの魔女…あの人だけでなく、ミラも私から奪おうと言うの…






カエルム:へぇ。おばさんが願い事をしたらルナが鏡に現れたのか。

ミラ:そうなの。お母さんは私が一人で寂しい思いをしてるんじゃないかって天にお願いをしたんだって。
   そしたら私の10歳の誕生日にルナが鏡の中に現れたんだよね。

カエルム:ふぅん。そんなことがあるんだな。
     それからルナはミラの友達なんだな。

ルナ:………

ミラ:うん。ルナはとっても大切な友達よ。
   私と違ってしっかり者で、頼りにしっぱなしだけれど。
   まるで双子のお姉さんみたいなの。

ルナ:ッ…!!

ミラ:?どうしたの、ルナ?

ルナ:ううん、なんでもないわ…






ソル:そんなことはさせないわ。ミラは私の…たった一人残された…大事な、家族なの。
   たった一人の可愛くて…愛しい娘なの。
   あの子の笑顔があるだけで私は救われた。あの子が私の全て……






カエルム:なるほどな。ミラが寝坊してもちゃんと可愛い格好してくるのも、
     全くミラには想像つかない可愛い小物や服を見て回るのも、
     そそっかしくて約束の日間違えそうなのにちゃんとしてんのも、
     全部ルナのおかげってことか。

ミラ:ちょっと!最後のは違うでしょ!!

カエルム:否定しきれるのか?

ミラ:…って言われると、自信ないかな。

ルナ:ミラは約束破るような子じゃないわ。確かに日にちや時間は間違えそうだけど…

ミラ:フォローになってないよぉ。

カエルム:しかし、本当に見た目は全く一緒なのに、中身は全然違うんだな。

ミラ:当たり前でしょ。ルナはルナ、私は私だもん。

ルナ:私はミラの友達だから、ミラ自身ではないわ。

カエルム:そっかぁ。んー、難しいな。

ミラ:どうして?鏡の中にいるだけで、見た目は一緒だけどルナは私じゃないもの。

ルナ:まぁ…理解はしづらいわよね…

ミラ:頭で考えないで、目の前にいるルナを見ればいいじゃない。
   どう見ても私じゃないでしょ?

カエルム:…それもそうだな!よし!ルナ、俺とも友達になってくれるか?

ルナ:え?

カエルム:ダメ、だったか…?もしかして、ミラ以外が友達になるとルナは消えちゃうとか…

ルナ:ううん!そんなことないわ!!
   私、友達になってもいいの?

カエルム:当たり前だろ。

ルナ:…ありがとう。
   よろしくね、カエルム。





ソル:何があってもミラだけは私が守らなきゃ…でも、どうすれば…
   ルナがいつ私からあの子を奪うかわからないわ。
   考えるのよ。大丈夫、大丈夫…
   私はあの子を救えるわ。大丈夫…
   考えて…考えて……




カエルム:っと、もう夜か。あっという間だな。

ミラ:本当だ。お母さん、帰ってきちゃうね。

ルナ:楽しい時間は流れるのが早いって言うけど、本当ね。

カエルム:俺、そろそろ帰るよ。
     またおばさんがいない時にでも3人で遊ぼうぜ。

ルナ:ありがとう。楽しみにしているわ。

カエルム:その為にはミラ、お前がおばさんにバレないようにするんだぞ。
     んで、家にいない時間を作るんだからな。

ミラ:わかってるわ。任せて。

カエルム:不安だなぁ…いいか。3人だけの秘密だからな。
     絶対にバレないようにしろよ。

ミラ:もちろん。

ルナ:ねぇ、カエルム。これからもずっとミラの友達でいてくれる?

カエルム:何言ってんだよ。当たり前だろ、そんなの。

ルナ:うん。

カエルム:それに、これからはルナともずっと友達だからな。

ルナ:…うん。ありがとう。

ミラ:よかったね、ルナ。

ルナ:うん。

カエルム:んじゃ、また来るな。

ミラ:あ、途中まで送っていくよ。

ルナ:ありがとう。またね。

アミー:………キツイ。脱がせて。

ルナ:……………

アミー:ルナ。服、脱がせて…

ルナ:双子の…お姉さんみたい。だって。

アミー:…ルナはいいお姉さんになりそうだもんな。

ルナ:…なりたかったな。

アミー:大事な友達にはなれたじゃないか。

ルナ:…うん。

アミー:お姉さんは大事な友達にはなれないんだぜ。

ルナ:…うん。

アミー:ミラもカエルムも俺も、みんなルナのことが好きな友達だぜ。

ルナ:うん。







ソル:鏡…あの鏡がなくなれば…ルナはいなくなるかしら。
   私があの鏡を壊せば…可愛いミラを守れるのかしら…
   …大丈夫よ。今度はちゃんと守るわ…
   あの人と同じように、私から奪うことなんてさせないわ。
   ミラ…大丈夫。安心して…私の傍で笑顔でいてね。
   私が貴方を守るから。
   私が…ルナを殺すから。




【帰り道】


カエルム:うっわ。すっかり暗くなっちまった…
     おばさんと擦れ違わなきゃいいけど……
     ん?人…?
     あ、あー…おばさん。こんばんは。

ソル:…こんばんは、カエルム。

カエルム:ミラの家に届け物をしたんだ。
     今日卵をたくさんもらったからさ。親がミラの所へ持っていけって。

ソル:…そう。

カエルム:それで、ミラと話してたら遅くなっちゃって。

ソル:…そう。

カエルム:…おばさん?

ソル:カエルム。ミラの様子はどうだった?

カエルム:様子?いつも通りだったけど?

ソル:そう…ミラの部屋には入った?

カエルム:…入ってないよ。だっておばさんとの約束だって。
     昨日言ってたじゃないか。

ソル:あの子の部屋にね。魔女が住んでるの。

カエルム:魔女…?

ソル:悪い魔女がね、ミラの部屋の鏡に潜んでるの。
   それでミラの心を惑わしているのよ。

カエルム:鏡…おばさん、何言ってるの?

ソル:でも大丈夫よ。ミラは私が守るわ。
   あんな魔女に、ミラは渡さない…

カエルム:おばさん、魔女って…
     ルナは、友達だろ?おばさんがミラが一人じゃ可哀想だって天にお祈りして、
     ミラの誕生日に鏡の中に現れたミラの友達だろ?

ソル:その話…ミラから聞いたの?

カエルム:…ああ。

ソル:そう…
   それじゃあ、部屋に入ってルナに会ったのね。

カエルム:ごめんなさい、おばさん。
     おばさんもミラも可愛いモノになんか興味ないのに、
     ミラは必ず買い物の時に可愛い小物や服を買っていくから。
     俺、他に誰か一緒に住んでるんじゃないかって気になって…

ソル:何故…ミラは私との約束を破るような子じゃなかったわ。
   全部…全部、あの魔女の所為だわ。
   早く、悪い魔女からミラを守らなきゃ…

カエルム:おばさん!ルナはいい子だよ。
     それにミラの大事な友達だ。

ソル:うるさい!!他人の貴方に何がわかるというの!!!
   ミラは私のたった一人の大事な子なのよ!私のたった一人の家族なのよ!!
   誰にも渡さない!邪魔させない!
   もう誰一人、私の大事な家族を奪わせない!!!(カエルムを突き飛ばし走り去る)

カエルム:ッ…おばさん!!
   





【ミラの家】


ルナ:ねぇ、ミラ。

ミラ:ん?

ルナ:カエルムって、とてもいい人ね。

ミラ:うん。カエルムも、ルナのこといい子だって言ってたよ。

ルナ:ありがとう。

ミラ:よかったね。ルナに友達が増えて。

ルナ:うん。ミラのおかげよ。

ミラ:ルナが素敵な人だからよ。
   鏡の中に現れた友達がルナでよかった。

ルナ:ミラ…

ミラ:あー、でも、やっぱり鏡から出てこれたらいいのにね。
   そうしたら、カエルムと3人でいつでも外で遊べるのにね。

ルナ:…それは、無理よ。

ミラ:ルナ…元気ないね。
   今日は賑やかだったから寂しくなっちゃったのかな?

ルナ:…そんなことないわ。私は元気よ。

ミラ:隠しててもわかるよ。なんとなく。
   ルナのことわかる。

ルナ:…私は、お母さんが願ってくれたミラの友達じゃなかった。

ミラ:え?

アミー:ルナ…

ルナ:私は、ミラと…お母さんと、みんなで笑顔で暮らしたかったの。
   みんなが幸せなら、鏡の中でも寂しくないの。

ミラ:ルナ?
   私は、ルナが鏡に現れてくれて幸せだよ。私の大事な友達だもん。

ルナ:…でも、お母さんは……

ミラ:お母さんだって幸せに決まってるよ!
   それに、カエルムだってルナと一緒で楽しそうだった。

ルナ:………

ミラ:だから、ルナ。そんな悲しそうな顔しないで?
   私、お母さんに話してみるよ。カエルムと3人でいつでも会えるようにしてもらう!
   そしたら、もっともっと楽しいでしょ?

ルナ:ミラ…

ミラ:ルナが悲しかったら、私までなんだか悲しくなっちゃう。

ルナ:ミラ…うん。ごめんね。

ミラ:ううん。大丈夫…
   今日はもう休もう?いっぱい遊んで疲れたでしょ?

ルナ:うん。

ミラ:またたくさん遊べるように、ルナも体力つけないとね!

ルナ:そうだね。

ミラ:おやすみ、ルナ。たくさん遊ぼうね。

ルナ:うん、おやすみなさい。







アミー:………ルナ。

ルナ:…ミラに、話せなかった。
   ミラにはカエルムがいるし…私がいなくても、
   お母さんとカエルムと幸せに暮らせると思ったのに。

アミー:話さなくていいこともある。
    それに、ルナはもっと自分のこと考えていいんだぞ。

ルナ:私のこと?

アミー:そうだ。ルナだって、ずっとミラたちと一緒にいたいだろ?

ルナ:もちろんよ。

アミー:ルナがミラたちのこと大事に思うように、ミラたちだってルナが大事なんだ。
    いなくなったら寂しいだろ。

ルナ:うん…でも、本当の私はもう死んでて…
   今いる私が、お母さんを苦しめている…

アミー:ルナは魔女なんかじゃない。
    お母さんだって、きっとわかってくれるさ。

ルナ:…そうかな。

アミー:そうに決まってるさ。
    それに、お前がいなくなったら俺のタキシード作り直すヤツ、いなくなるだろ。

ルナ:そのままでも似合ってたよ。

アミー:キツイんだよ。

ルナ:ふふっ…うん、作り直すね。
   ありがとう、アミー。

アミー:…ふん。

ルナ:素直じゃないね。

アミー:着心地のいいタキシード作ってくれたら、お礼言ってやってもいいぜ。

ルナ:わかった。ついでだから、もっと格好良いデザインにするね。

アミー:本当か?

ルナ:うん。

アミー:約束だからな。

ルナ:うん。約束。







【次の日】



ミラ:よしっ!頑張るぞー!!

ルナ:…んぅ、ミラ…?

ミラ:あ、ルナ!おはよう!

ルナ:おはよう、ミラ…ふぁ、今日は随分早起きね。

ミラ:うん!私、頑張るから!

ルナ:頑張る…?今日、カエルムと約束してたかしら?

ミラ:カエルム?

ルナ:デートじゃないの?あ、ミラ。リボン曲がってるわよ。

ミラ:違うよ!デートじゃない!
   今日は、お母さんにお願いするの。

ルナ:お願い…?

ミラ:そう。カエルムを部屋にいつでも上げていいようにって。
   ルナと、カエルムと3人で遊べるように。ルナが寂しくないように。

ルナ:ミラ…
   ありがとう、ミラ。でも、お母さんを困らせては駄目よ。

ミラ:大丈夫だよ!話せばきっとお母さんもわかってくれるわ。

ルナ:お母さんに怒られて、カエルムとも遊べなくなったら困るでしょう?

ミラ:それは嫌だけど…そうならないようにするわ。上手くやる。

ルナ:私は、ミラと話せるだけで十分よ。

ミラ:私が、もっと3人で遊びたいの。

ルナ:ミラ…

ミラ:大丈夫だよ。私が何とかするから。
待っててね!お母さんに話してくる!!(部屋を出ていく)

ルナ:………大丈夫かな。

アミー:まぁ、心配な気持ちはわからないでもないぜ。
    なんせ、話すのはミラ。相手はあのお母さんだもんな。

ルナ:うん…ミラ、お母さんに怒られて、カエルムと話せなくなったりしないかしら。

アミー:おいおい、ミラの心配か?
    少しは自分のことも心配しろよ。

ルナ:だって、私にとってはミラのことも大事よ。
   それにカエルムも。ミラと話してる時のカエルムは本当に楽しそう。

アミー:そうか?

ルナ:そうよ。まるで私と話しているときのアミーみたい。

アミー:あー、なるほど。…全然わからない。

ルナ:アミーは、私と話してるとき楽しくないの?

アミー:楽しくなさそうに見える?

ルナ:ううん。

アミー:…ふん、どうだろうな。

ルナ:素直じゃないねー。

アミー:うるさいなぁ…

ルナ:……ミラ、大丈夫かなぁ。

アミー:きっと大丈夫だよ。アイツ、ルナのことになると頑張るから。
    ちゃんとお母さん説得してくるよ。

ルナ:ありがとう、アミー。

アミー:どういたしまして。

ルナ:こういう時は素直だね。

アミー:…ふんっ。








ソル:おはよう、ミラ。
   昨日はよく眠れた?

ミラ:おはよう、お母さん。
   うん。たくさん寝たよ。

ソル:そう、よかった。

ミラ:ねぇ、お母さん。私、お母さんにプレゼントがあるんだ。

ソル:プレゼント…?何かしら?

ミラ:これ…この前言ってたペンダント。
   本当は、サプライズのつもりだったんだけど。

ソル:まぁ、綺麗なクリスタル…

ミラ:うん。お母さんに似合うかなって思って。

ソル:ありがとう。ミラ。(ペンダントをつける)どう?似合うかしら?

ミラ:うん!とっても綺麗よ!!

ソル:ミラ…ありがとう。貴方は私の、大好きな娘よ。

ミラ:もちろん。私もお母さんのこと大好きよ。

ソル:ミラ……

ミラ:あのね、お母さん。実は話っていうか…お願いがあるの。

ソル:お願い…?何かしら。

ミラ:うん、ルナのことなんだけどさ。

ソル:ルナ?…そうね、聞かせてもらうわ。
   ミラの部屋へ行きましょう?
   ルナと三人で話したいわ。








ルナ:ねぇ、アミー。今度のタキシードは何色がいいかな?

アミー:タキシードは黒だろ。

ルナ:そうだけど…アミーにだったら赤とか紫のタキシードも似合うかなって。

アミー:う…黒がいい……

ミラ:さぁ、入って。お母さん。

アミー:…………

ルナ:あ、お母さん。おはよう。

ミラ:お母さんが、ルナとも一緒に話したいって。
   あのね、お母さん。私、お母さんにお願いがあって…

ソル:その前に、お母さんもお話があるの。

ミラ:お話?

ルナ:お母さん…

ソル:ええ、お話よ。さぁ、お母さんとお話をしましょう。
   昔々、街の外れの一軒家。そこには仲のいい夫婦が住んでいました。

ミラ:お父さんとお母さんでしょ?そこに私が生まれたのよね。

ソル:そうよ。この家には小さな女の子とお母さんの二人きり。
   お母さんは、その子に寂しい思いをさせてはいけないと天にお祈りをしました。
   するとどうでしょう。鏡の中に、女の子のお友達が現れたのです。

ミラ:うん、それがルナ。誕生日の日に、鏡の中に現れた私の友達。

ソル:しかし、鏡の中のお友達は実は悪い魔女でした。

ミラ:え?魔女…?

ルナ:……ッ

ソル:ルナは悪い魔女なの。私からミラを奪おうと、鏡の中に現れたのよ。

ルナ:違う…違うわ、お母さん。私は魔女じゃない。

ミラ:そうよ。ルナが魔女なわけないわ。
   お母さん、少し疲れているんじゃない?顔色が悪いわ…

ソル:いいえ、ミラ。私は正気よ。
   騙されているのは貴方よ…可哀想に。

ルナ:お母さん。

ソル:大丈夫よ、ミラ。お母さんが、ミラを守ってあげるからね。
   悪い魔女は退治しなきゃね。

ミラ:やめて、お母さん。しっかりして。

ルナ:……私が、悪いの?

アミー:ルナ…

ルナ:ッ……

ミラ:お母さん!やめて!

カエルム:ミラ!ルナ!!

ミラ:カエルム…ッ、カエルム!助けて!!
   お母さんが変なの!!

カエルム:はぁっ…はぁ…ッ、間に合った…

ソル:カエルム…何しに来たの。
   貴方まで、魔女に惑わされてるの?

カエルム:ルナは魔女じゃない。

ルナ:カエルム…

カエルム:ルナは…ミラの双子のお姉さんだ。

ミラ:え?

ソル:っ!?

ルナ:何故、それを…

カエルム:鏡の中に現れたミラそっくりの友達、ルナ。
     昨日擦れ違ったおばさんの様子もおかしくて、気になって父さんに聞いたんだ。
     父さんもビックリしていたよ。そして教えてくれたんだ。
     ルナとミラは双子だったって。父さんは昔、ミラの父さんの友人で地位もあって。
     だから、ミラの父さんに頼まれて約束したんだ。ミラとルナとおばさん、三人が幸せに暮らせるようにって。
     でもおばさんは…

ソル:嘘よっ!!違う!違うわ!!!
   私じゃない!ルナが生まれてきたから、あの人が死んだのよ!
   ルナがいなかったら、あの人は死ななかった!

ミラ:どういうこと…?ルナと私が、双子の姉妹…?

ルナ:………

カエルム:違うよ、おばさん。
     おばさんがルナを殺さなければ、ミラとルナとおばさん…三人で幸せに暮らせたんだ。
     でもおばさんは、ルナを殺して埋めた。

ミラ:殺した…?嘘でしょ…お母さんが、ルナを殺したなんて…

ソル:違う…違う…ルナが…あの人を殺したから……

ルナ:お母さん…

カエルム:ルナは殺してない。ただミラの双子の姉として、一緒に生まれただけなんだ。

ソル:違う…その子が…あの人を…

カエルム:生まれてきただけの子どもに罪はないだろ?ルナだって、おばさんとおじさんの子どものはずだ。
     そして、ミラのお姉さんだ。

ソル:私と…あの人の……違う…私とあの人の子は、可愛いミラだけ…
   ルナは魔女よ!私からあの人を奪って!!今度はミラまで奪おうとしているのよ!!

ルナ:違う…私は魔女じゃない…お母さんから、大切な人を奪ったりしない。

ソル:嘘よ!私は騙されないわ!!

カエルム:もうやめよう、おばさん。魔女だなんて…ルナとミラをまた引き離すなんて。
     新しく3人で暮らせばいいじゃないか。ルナとミラは、いい友達だよ。

ミラ:…お母さん。

ソル:………

ミラ:お母さんは、私を守ろうとしてくれたんだよね。
   ルナは、また私の友達になろうと鏡の中に戻ってきてくれた。
   私、それだけで十分嬉しいわ。

ルナ:ミラ…

ミラ:3人で仲良く暮らしましょうよ。ルナはとてもいい子なの。
   お母さんとも仲良くなれるわよ!だって、私たちは家族でしょ?

ルナ:……

ミラ:ルナだって、この5年間鏡の中だったけど、家族として一緒に過ごしてきたはずよ。
   これからだって、一緒にいたいはず。そうでしょ、ルナ?

ルナ:…うん。私は…ミラと、お母さんと…家族として一緒に暮らしたい。
   ミラのお姉さんじゃなくていい。鏡の中の友達でもいいから。
   この家で、3人で幸せに暮らしたいの。

カエルム:おばさん、もう許してあげなよ。自分も…ルナのことも。

ミラ:そうよ、お母さん。きっと楽しいわ。今までみたいに…ううん、今まで以上に楽しいはずよ!

ソル:……やっぱり

ミラ:ん?

ソル:やっぱり、ルナは魔女だったのね…私から…大事な…ミラの心まで奪っていったわ…
   (首に下げたクリスタルのペンダントを握りしめる)

ミラ:お母さん…?

ソル:このペンダントね…ミラからもらったのよ…綺麗なクリスタル…
   私の大事な、娘から…

ルナ:…お母さん。

ソル:それを…この魔女が…許せない……

ミラ:お母さん…

ソル:許せないッ!!!!

ミラ:キャッ!!

カエルム:ミラッ!!!

ソル:(ペンダントを引きちぎりクリスタルを鏡のルナの胸元に突き刺す(机を叩く等で鏡を殴る様なSEがあるといいかも))

アミー:ルナ!!!!

ルナ:っ!!!!

ミラ:…った……一体何が…
   ッ!あぁっ!!鏡が!!!!

カエルム:ッ!ペンダントが刺さって…割れてる。

ルナ:ッ…く(胸を抑えて倒れこむ)

アミー:ルナ…血が出てる。

ルナ:…はっ、ぁ…ホント、だ。

カエルム:ミラ…ッ!お前、胸から血が……

ミラ:え…?ホントだ…痛くない。

カエルム:痛くない?

ミラ:ルナが…ルナが、怪我したんだ。

ルナ:ミラ…ッ…

ミラ:ルナ!

ルナ:ミラ…ッ、ごめ…んね。私…

アミー:喋っちゃダメだ。ルナ。(血を止めようとルナの胸元を手で押さえる)

ルナ:アミー…汚れちゃう……

アミー:俺のことはいいから。

ルナ:…ぅ、ミラ…嬉しかった。
   友達になれて…双子のお姉さんみたいって…言ってくれて…
   外で…一緒に、遊びたいって…言ってくれて

ミラ:そんなの!当たり前じゃない!!

ルナ:ン…ミラ、は…私の特別…元気で、明るくて、可愛くて…
   本当に…妹のようだった…私の、大切な友達…

ミラ:私だって、嬉しかった。ルナが…誕生日に現れてくれて…
   友達になってくれて…ルナが私のために…たくさん、服選んでくれたり、遊んでくれたり…

ルナ:…ふ、よかった…ミラに喜んでもらえて…

ミラ:ルナ!しっかりして!!

ルナ:…カエルム、ッ、ミラのこと…よろしくね…
   友達、だって…言ってくれて…嬉しかったよ……

カエルム:ルナ…

ルナ:っ!がはっ…はぁ…ッ、はは…
   走って、転んで…怪我するのって、痛いんだね…

アミー:ルナ

ルナ:痛い…痛いなぁ……
   でも…お母さんは…もっと、痛かったんだね……
   お母さん…

ソル:……ぁ、

ルナ:いっぱい…痛い想いさせて…ごめんなさい…ッ

ソル:…ルナ………

ルナ:お母さんが…つらい、選択…しなきゃ、いけなくて…
   私…お母さんに、幸せになって…もらいたくて…

ソル:…幸せ……

ルナ:でも…ッ、私…魔女だったんだね…
   お母さんにとって…悪い、魔女…
   ごめんなさい……おかあ…ッ、さ…

ソル:魔女…ルナ……

ルナ:ッ…魔女は…っく、鏡の中のお友達は…灰になって消えました…
   女の子と…お母さんは…再び、幸せに暮らしましたとさ…
   幸せに…ずっと…幸せ、に……

(鏡の亀裂が広がり粉々になり、キラキラと地面に散る)

カエルム:鏡が…粉々に……ルナ…

ミラ:ルナ!!いや…嫌だよ…ルナッ!!!!

ソル:幸せに…幸せに……

ミラ:そんな…ッ、ルナも一緒じゃなきゃ幸せじゃないよ!
   皆で、皆で…幸せに…ッ!!!

ソル:幸せ…ルナ…私たちの子…ミラのお姉さん…
   双子…私たちの可愛い…殺すなんてできない…
   だって、この子達は…私と貴方の可愛い子ども……
   あぁ…ッ!ルナ…!!

ミラ:ルナぁ…

ソル:…ルナは、私たちの幸せを考えていてくれたのね……
   ミラが寂しくないように…私の罪を許すように…
   それなのに、私はこの手で…二度もルナを殺してしまったのね…
   私の幸せのために…
   ごめんなさい…ルナ………

(粉々の鏡の前で、ミラとソルの泣き声が響く)






【鏡の中】


アミー:ルナ…?寝ちゃったの?ルナ。

ルナ:………(寝息)

アミー:あーあ、こりゃ起きないなぁ。
    お疲れ様、ルナ。
    たくさん頑張ったな。母さんと、ミラのために…

ルナ:…ミラ…んぅ、起きて…すぅ…

アミー:俺はルナの幸せそうな様子、ずっと見てたからな。
    母さんとミラと、たとえ少しの時間でも3人で幸せそうに暮らしてた。
    ありがとう、ルナ。

ルナ:…んぅ……

アミー:やれやれ、全く起きる気配がないな。
    せっかく俺がいい話してやってるのに。
    ま、疲れたんだろうな…ゆっくり休めよ。
    次起きたら、格好良いタキシード作る約束だからな。

ルナ:…………

アミー:…昔々、街の外れの一軒家。そこには幸せそうな家族が住んでいました。
    家族は…


ルナ:家族は4人家族。お父さんとお母さんとルナとミラ。
   お父さんとお母さんはいつも仲が良くおしどり夫婦で有名でした。ルナとミラは…

ミラ:ルナとミラは双子の姉妹でした。見た目は全く一緒なのに性格の全然違う二人。
   それでも、とっても仲良しで大事な友達でした。

カエルム:おっと、忘れちゃいけない。二人と仲のいい友達、カエルムと
     ルナの大事な友達、くまのぬいぐるみアミー

ソル:4人の家族は素敵な友達と暖かい家族に囲まれて、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

アミー:お話の終わりは、いつだってハッピーエンドなんだぜ?
    形はどうであれ、皆幸せにならないとな。



ルナ:おしまい。




     


speculm-スペクルム- END

演じてくださりありがとうございました!感想等、いただけたら喜びます。

 

 

 

 

 

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